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きょうの仕事場

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2019年04月11日

起業や仕事を生む“関係づくり”の場へ。コワーキングを通じて新しい働き方を探る

日本で初めて「コワーキングスペース」が登場したのは、今から9年前(2010年)のこと。異なる仕事をする人びとが“共に働く”ためのスペースとして、翌年以降は各地に、そして京都にも、続々と誕生していきました。その数は現在、全国で400件近くともいわれます。

そして、時代の変化とともに、それらのスペースの役割も変化してきました。個々の暮らしを大切にした柔軟な働き方を実現させたり、新たな仕事や事業を生み出したり。場の持つ可能性を、今なお広げ続けています。

昨年立ち上がった『Goworkin’Kyoto』は、そうした中での「スペースの見える化」と「行き来する人の増加」、さらには「プロジェクト創出や起業」を目指すプラットフォームです。

京都を起点に情報発信を進める中で、2019年3月10日に行われたのが、コワーキング運営者および新しい働き方の実践者たちを京都へと招いた対談イベント『GoWorkin’ NIGHT in KYOTO〜コワーキングやシェアオフィスを活用した仕事や暮らしのつくり方』(主催:京都市・京都高度技術研究所 アステム)でした。

これからのコワーキングのあり方や個人の働き方、仕事のつくり方を考えるためにお呼びしたのは、茨城県結城市のコワーキング『yuinowa』より鈴木哲也さん、北九州市のコワーキング『秘密基地』より岡秀樹さん、全国を旅しながら働くデザイナーの武田明子さんの3名。ファシリテーターは、Goworkin’Kyotoを運営を担当するTunagumのタナカがつとめました。

登壇者プロフィール

岡 秀樹(Hideki Oka)
1976年、福岡県北九州市生まれ。2001年、ロンドンにてアイルランド人の大工らと共に工務店開業。設計施工・シェアハウス及び共同ワークスペース事業を展開する。2005年、日本に帰国。一級建築士事務所、インテリアデザイン事務所を経て、設計・コンサルティング業を開始。2014年、コワーキングスペース『秘密基地』を設立。 現職に至る。昨年12月、Coworking Conference Japan 2018を北九州にて開催。

武田 明子(Akiko Takeda)
1983年、兵庫県高砂市生まれ。大阪芸術大学グラフィックデザインコース卒業後、10年間で4社にデザイナーとして勤務。2015年6月に独立、12月に株式会社ヨハクデザインを設立。企画、紙媒体のデザイン制作、ワークショップ開催が主な業務内容。2018年5月にメイン拠点を岩手県にうつしながら、多拠点生活×仕事を実践中。磨耗せず余白とともに生きる社会を作るのがミッション。フリーランスのライフログをInstagramで更新中。

鈴木 哲也(Tetsuya Suzuki)
茨城県出身。横浜市在住。全国の地方創生案件に関わり地元茨城で移住定住支援団体『茨城移住計画』の立ち上げた。茨城県結城市で古き良き城下町が残る街全体を会場にした祭『結い市』や町巡り音楽イベント『結いのおと』を実施。2017年8月に築80年の呉服店をリノベーションしたコワーキング・シェアスペース『yuinowa』を立ち上げた。2018年よりコワーキングスペース立ち上げたい人向けの支援をする『コワーキングスクールキャンプ』も実施。ヤフー株式会社地方創生チームに所属。

コワーキングならではの起業環境

冒頭に1人10分ほどの自己紹介のあと、対談の最初で設定されたトークテーマは「起業」。京都でも、規模は東京に及ばないものの、スタートアップの資金調達や企業連携も増加の傾向にあります。そうした中で、コワーキングだからこそ生み出せる価値は何か。

岡さんの運営する秘密基地では、すでに50人近い起業家が誕生されているといいます。まず、そのベースとなるプログラム『創生塾』について教えてもらいました。

岡:「創生塾は『知見と体験のシェアリング』の場で、基本的なスキルの転用を目的にしています。例えば、武田さんのようなデザイナーの発想方法って、他でも結構使えるんですよ。余白の使い方なんかは典型で、人間関係の考え方にも活かせたりします。

毎回30〜50人くらい参加するんですが、やっていくと『ある人のスキルが、他の人にとってすごく価値を持つ』ことが分かってきます。そういう自分のスキルを見つけて掛け合わせていくと、圧倒的に個人のブランドが立つんですね」

型どおりのビジネススキルではなく、その枠をこえて“横に滲み出る”ような固有のスキル。その引き出しこそが、新しい働き方を求められる今の時代に価値を生み出すのではないか、と岡さんはいいます。

 

岡秀樹さん

岡:「起業に繋がるもう1つのポイントは、横の関係が生まれることですね。最初の“0→1”みたいなところって、まずはサービスを使ってもらわないと分からない。でも、それを何の人脈もないのにやるって難しいんです。だから友達は多い方がいい。

社会の中で事業をしていくのだから、創業もお客さんに囲まれながら、みんなですればいいわけです。そういう意味では、ローカルではじめる意味ってあると思いますよ」

コワーキング運営者や地域の移住窓口となる人にこそ、生み出せる繋がりがあるのでは。そう語る岡さんの意見に、同じくスペースを運営する鈴木さんも賛同します。

鈴木:「コワーキングスペースでも、まだ多くの場所で“cowork”できてないよね、って岡さんと話してたんです。いる人同士の化学反応でいい仕事が生まれるためには、やっぱり運営者がアクションを起こさないと。

僕は移住の仕事もしていますが、『面白いことをしたい』という人が、今地域に増えているんです。それに火をつけて形に、というのはまさにコワーキングの役割かもしれませんね」

岡:「人と人とが繋がらないと何も起きない。そして、互いのスキルが分からないと誰に聞いていいかも分からない。

僕がスペースを始めたのは、昔ロンドンで運営していたシェアハウスの夜が好きだったからなんです。皆で夜な夜なテーブルを囲んで、お互い抱えた課題を出し合う。皆でそこに、違う角度でコメントを入れていく。すると、アウトプットがどんどん変わるんです。

コワーキングのエッセンスになるのはこれだと思いました。」

関係性が、仕事へと繋がる

また、起業を生み出す役割はもちろんですが、場所を通じて仕事を繋ぐ、ということもコワーキングの重要な要素です。鈴木さんからは、コワーキングで仕事を受注する形も示してもらいました。

鈴木:「yuinowaの母体となる会社で行政の仕事を請けて、ライターさんやデザイナー、エンジニアに委託しています。なぜかというと、県や市町村の仕事って、フリーランスに直接発注できないんですよ。

間に誰か入る必要があるんですが、地元じゃない企業だと、片手間でやられてしまうことも多い。僕たちは、できればその市町村の、無理だったら茨城県の、それでもいなければ地域を想ってる東京のプレーヤーと、一緒に仕事をやるようにしています」

実際にそうしたプロジェクトの組み方をすると、想いがある分いいアウトプットに繋がりやすいと鈴木さんはいいます。

左:武田明子さん、右:鈴木哲也さん

3人目の登壇者である武田さんは、神奈川東京から岩手県に移住し、シェアオフィスを拠点にしつつ、車で移動しながら全国各地のコワーキングなどで仕事をしています。ここまでの話を受け、“旅するデザイナー”として働く彼女に「旅先の地域で仕事が得られるから?」と質問をぶつけてみたところ、明確に「それはない」との答えが返ってきました。

武田:「私の場合は、東京の広告代理店の仕事をベースにしてますね。地域に行った時に、『東京のデザイナーなので、何か仕事ありませんか』って営業をかけることは、すごく失礼だと思っていて。

逆に『デザインでない仕事で、困ってることあればやります』と言って、収穫のお手伝いなんかをしてます(笑)。仲良くなってからデザインの仕事を頼まれた場合は、喜んでお請けしますけどね」

金銭的な対価としての関係だけを地域に求めるのは自分のためにもならない、という武田さん。

関係性ができてから、初めて仕事に繋がる──。先ほどの、スキルが“横に滲み出る”こととも関わってきそうな話に、鈴木さんも頷きます。

鈴木:「キャッシュポイントを作りにいかない、って本当にそうで。まず、そういう人には仕事がいかないですね。やっぱり仕事以外のところが、信頼になるんだと思います。

仕事に繋がる人って、最初は仕事内容よりも、もっとパーソナルな情報で覚えていて。ふらっと来た人と、お互い自己紹介だけして、あとになって発注することも多いですよ」

武田:「東京の仕事はオンライン中心ですが、地域の仕事は直接1回会いましょうとか、一緒にご飯いきましょうとか、すごく多い。人と人として楽しく過ごすための関係性をゆっくり築いていく、そういう地域を持つことがとても意味のあることかなと思います」

魅力的なコワーキングの“空間づくり”とは

今回の登壇者はみなさん、全国のいろんなスペースを見てきた方たちです。3人に向け、主催者がもう1つ用意したトークテーマは、「どんな空間・スペースが魅力的?」というもの。これについては、経験の豊富な武田さんから語ってもらいました。

武田:「私は働き方として、24時間対応(他の人が対応できなかった緊急案件を中心に受注するスタイル)を掲げているので、まずは移動中に圏外にならないことを心がけています。スペースを利用するときは、Wifiと電源が必須ですね。

アクセスの良さは、車の時は気にしませんが、電車や飛行機のときは優先的にいいところを選びます。あと、できれば遅くまで開いてるところですね。

それと、座席の間隔は重要。新製品の情報とか社外秘を扱うことも多いので、うしろに人にがうしろを通られると困るんですよ。席の周りがちゃんと空いてるのは条件になります」

 

 

武田:「もう1つ、静かすぎないこと。音がある方が私は集中できます。打ち合わせも気にならないし、自分もそういうことができる場所がいい。こちらの電話の話に耳をそばだてられるのも困りますし。クワイエットルームが分かれてるところは、すごく配慮されてるなって思います」

岡:「僕もときどき他のスペースを利用しますが、その設計はすごく大切ですよね。仕事しないといけないときと、交流するときをちゃんと分けられるかどうか」

鈴木:「静かすぎないのは僕もそう。雑談しちゃいけないのかな、電話も外へ行かないといけないのかなって。ただ、集中したいときと、会話したいときの見極めができているのが、コミュニティとしてもいいなと思います。

その土地に行って、プレーヤーの人たちとしゃべれるのがおもしろくて、僕は利用しているところもあります。いいコワーキングスペースがあると、そこに出向きやすくなりますから、地域の宣伝にもなると思うんですよね」

京都だからこそ、できることとは?

話をしているうちに、1時間の対談もあっという間に終わりの時間。締めに、ファシリテーターから「登壇者×京都で何ができるか?」という話が3人に振られました。

鈴木:「仕事と違った活動をしてる人同士を繋げられたら、いろいろ一緒にできますよ。例えば、僕は音楽レーベルの運営もやっていて、働きながら音楽活動を続けている人を支援しています。『自分もできるかも』ってハードルを下げてもらうために、その実践者を呼ぶイベントを京都でもやりました。ここは集客力もあるので。

あとは、大学が多いじゃないですか。茨城はほとんどないんです。学生とか大学の人とか、教育に関わる人とかとコラボできるのはいいなって思いますね」

 

 

武田:「私は兵庫出身なんですけど、今回はじめて関西のイベントに呼んでもらいました。やっぱり全国へ行っていると、地に足があまり着いてない。1ヶ所にいる人が本当は強いと思ってるんですけど、自分はそうできなかったというコンプレックスが少しあります。でも、本当はもっと関西に来たいですね。

あと、大学生もそうですが、私は中学生にも話をしたいなと思っていて。岩手は特に公務員信仰も強くて、それしか選択肢を知らない人もいる。高校生だと、もう親に言われて頭の中で進路が決まっている場合も多いんです。

そうじゃなく、もっと頭の柔らかい段階の子たちと話をしたい。多様な働き方が形になっていく過渡期にある中で、ぜひ中学生くらいの子と話をしたいなって思います」

 

岡:「うちでも、進路に悩んで高校を辞めるという子たちがいますが、僕らはそれを応援します。秘密基地に通って、プログラミングなどを学んでもらう。自由な生き方のために、お金をつくれる社会性と能力は基本なので。

“フリーランス”というと昔の文脈も引きずりますが、“フリーエージェント”って考えたらいいと思うんですよ。いろんなところと契約してる人っていっぱいるし、他ジャンルに渡って独立してる人もいる。そういう人たちが今から増えていくって意味では、学生とも相性がいいと思います。

でも、僕が京都で何がいいかって考えたら、やっぱり古きものを持っている日本の代表的な都市じゃないですか。そこと、新しいものをどう繋げるか。『古いんだけど、新しい』クリエイティブなものを生み出せたら、すごく面白いと思っています」

京都という町と、繋がりの場としてのコワーキングを使った独自コンテンツはもっとあっていい。そう感じさせる言葉とともに、対談は幕引きとなりました。

おわりに

起業、仕事、繋がりを生むコワーキングづくり、そして京都という町。今回、実際にゲストを交えての話をできたことで、主催者にとっても、これまでない気づきをいくつも得ることができました。

中にいればこそ、気づけない視点はあります。これからもGoworkin’Kyotoとしては、積極的に外部との交流を図りながら、人と場所を繋ぐ役割を担っていければと実感するイベントとなりました。

(文:佐々木将史)

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