2020年03月19日
イベントコワーキングコワーキングフォーラム人と人がつながり、あらたな価値が生まれる場をつくろう。「コワーキングフォーラム関西2020」イベントレポート
2020年2月7日グランフロント大阪内にある「 OSAKA INNOVATION HUB 」にて、多様な働き方を紹介する「 コワーキングフォーラム関西2020 」が開催されました。主催するのは、40を超える関西のコワーキングスペース・シェアオフィス・インキュベーション施設運営者と協力企業が参画する関西Beyond The Community。
集まったのは約170名あまりのコワーキングスペースに関係する方々。スペース運営者やユーザーだけでなく、行政・企業など多方面から参加され、会場に用意されていた席がほぼ満席となるほど大盛況!とても熱気の溢れるイベントとなりました。今回はそのイベントの一部をレポートいたします。
(司会・進行は、関西Beyond the Communityの森澤 友和さんと向井 布弥さん)
コワーキング物語/セッション・パネルディスカッション
開会式の後に早速始まったのは、京都・大阪・兵庫の代表者によるパネルディスカッション。日本で一番初めにコワーキングスペースを神戸でスタートさせた「カフーツ」の伊藤富雄さん、大阪初のコワーキングスペース「JUSO Coworking(十三コワーキング)」の深沢 幸治郎さん、そして本サイト「Goworkin’Kyoto」の運営者であり、「京都リサーチパーク町家スタジオ」や「385PLACE」を運営するタナカユウヤの3名で【コワーキングの過去・現在・未来】についてディスカッションが行われました。
先陣を切ったのは伊藤さん。世界中のコワーキングスペース(以下、コワーキング)を探訪しながら情報を収集し、国内では定期的に「コワーキングツアー」を開催。コワーキング事情に精通している伊藤さんに、まずはコワーキングに関する歴史や最先端の情報について教えていただきました。
コワーキングの起源
コワーキングスペースの起源のひとつは、20世紀初頭のフランスで生まれたパリの芸術家のアトリエ兼住宅「ラ・リューシュ」。その後、1978年のアメリカで文筆家が集まるスペースとして作られた「ライターズクラブ」など、コワーキングというはっきりとした概念はなかったものの、「共同でワーキングする/共同で何か起こす場所」が各地で生まれていたようです。
「コワーキング」という明確な概念が生まれたのは、2005年8月9日。サンフランシスコの「Spiral Muse」でブラッド・ニューバーグというIT系エンジニアが、「コワーキングしよう」と友人に声をかけたことによってスタートしました。8月9日は「International coworking day」に制定されています。その後ブラッドは、「ハットファクトリー」という新たなスペースで、コワーキングの5大価値を提唱しました。
→詳しくは伊藤さんの動画:https://www.youtube.com/watch?v=YZppKBAJfnw&feature=youtu.be
日本のコワーキング事情
日本では伊藤さんによって、2010年5月神戸で日本最初のコワーキングスペース「カフーツ」がスタートします。その後、2010年7月に東京・世田谷の「PAX Coworking (パックス・コワーキング)」、2010年12月に深沢さんが大阪・十三にて「JUSO Coworking」をオープン。京都では、2011年に「小脇」がスタートします。
伊藤さんはさらに「コワーキング協同組合」の発足、初期の日本のコワーキング情報が入手できる「コワーキングマガジン」の発行など精力的に活動を行っています。主催する「コワーキングツアー」では、18県・75カ所以上のコワーキングを訪問。様々なコワーキングに訪れる中で「コワーキングは、ただ作業をする場ではなく、目的や課題を解決するためのハブになっている」ということを実感したそうです。
そしてこれまでの集大成として、「コワーキング曼荼羅」を作成。コワーキングで出来ること、取組むべきこと、コワーキングで提供・問題解決できる価値(育児、学び、食、旅など)を見える化しました。
その他にも様々な海外や日本の事例を紹介してくださった伊藤さん。その情報量たるや!スピーディなお話と、膨大な情報量に思わず、キーボードを打つ手がつりそうになってしまいました…。続いて、働く場以外にも付加価値をもつコワーキングの事例として、「JUSO Coworking」のお話を深沢さんから伺います。
・子育て世代にやさしい取り組みを行う「JUSO Coworking」
深沢さんは「JUSO Coworking」をスタートさせた当初から、お子さん連れでの利用を受け入れていました。1階にはお子さんが遊べるスペースを設け、気兼ねなく利用できるような工夫も。これらは深沢さんと奥様の小さい子供を連れて仕事ができる場所を作りたいという思いからです。
(左側が深沢さん)
その他にも「JUSO Jelly!+家族ラボ」という、子連れでコワーキングをワンコインで体験できるイベントを定期的に開催し、子連れでコワーキングに来ることのハードルを下げる取り組みや、地域の子供にご飯を提供する「十三こども0円食堂」をスタートさせるなど、子育てを支援するイベントを多く開催しています。
深沢さんは、育児でつながるコミュニティ以外にも、地域との接点を積極的に持とうとしています。それは地域と関わることで、コワーキングに来る人の多様性を確保したいという思いから。多様な人が行き交うからこそ生まれることがある。「近所の人がふらりと訪れるコワーキングでありたいんです」と深沢さんは言います。それこそが「JUSO Coworking」の独自の空気感を生みだしているのでしょう。
・コワーキング同士の連携を強化する「京都の取り組み」
「GoWorkin' KYOTO」からはタナカユウヤが登壇し、京都のコワーキング事情に関してお話させていただきました。京都では一番初めに「小脇」がスタートしたあと、続々とコワーキングが誕生しました。
タナカも「京都リサーチパーク町家スタジオ」の運営を2011年からスタート。当時からコワーキング体験ができる一日として「オープンデイ」という企画を行い、毎週水曜日限定でオフィスの入居者以外にも多様な人が自由に来館できる日を作り、人が集まる環境づくりを行いました。
その後、西陣エリアで老舗の織物会社と連携して「385PLACE」をオープン。西陣エリアの人たちが集う「ハブ」となるようにと、地域の人たちが集えるようなイベントを定期的に開催しました。そのかいあって現在では、中小企業の相談事が集まり、企業と「385PLACE」会員のクリエイターをマッチングする取り組みができているようです。
その他にも、2011年から月1で京都のコワーキングで集まって仕事をする「Jelly! KYOTO」、2013年には廃校を使って行った「コワーキングフェス2013 in 京都」の開催に関わり、早くから京都内のコワーキングとの連携を図ってきました。今後もコワーキングの連携を強化し、京都のコワーキングをさらに盛り上げる取り組みを行っていきます。
「コワーキングはこれからどうなるのか?」
パネルディスカッションでは、コワーキングの未来についてお話いただきました。伊藤さんの「コワーキングは、単なる作業場ではなく、色んなことができる場所に進化している」という話から、いくつかのキーワードが浮上しました。
・コワーキングは「ビジネスが起こる交差点」
コワーキングは、多様な人が同じ場所を共有することで「協業・コラボレーション」が生まれる場所として注目されてきました。近年は「リモートワーク」の制度を導入する企業も増えてきたことで、会社員もコワーキングを使用する時代になりました。コワーキング使用者も多様化しより一層ビジネスチャンスが生まれる場に進化してきたようです。
・コワーキングは「ローカルコミュニティ」
「場所に捉われずに、仕事をしたい」という要望が増えてきている今、コワーキングは重要な場となりつつあります。社員全員がリモートワーク、年1回しか集まらない企業もあります。
タナカは「コワーキングは旅の拠点ともなり得る」と言います。その地域の情報を紹介してもらえる場所であり、そこで持ったつながりによって、仕事を紹介してもらえる場所となる可能性を持ちます。利用の頻度によっては、自分の3rdプレイスになりえる。そんな人が増えれば、ローカルコミュニティが活気づくきっかけになるのかもしれません。
・「コワーケーション」=コワーキング+バケーション
伊藤さんからは、世界で「旅先に滞在しながら、仕事をする」コワーケーションの事例をいくつかご紹介いただきました。海外では大手ホテルチェーンもコワーキング事業に参入するなど、大いに注目されています。コワーケーションで利用する人たちを誘致すれば、地域活性につながる可能性も生まれます。コワーケーションが起こす新たな可能性を見据え、コワーキングの制度や利用法を考え直す必要もあるのかもしれません。
コワーキングユーザーの事例
続くセッションでは、コワーキングのユーザー代表として、3組の方々にお話しいただきました。なぜそのコワーキングを利用しているのか、そこではどんなことが生まれているのか。ユーザーの視点からコワーキングをひも解いていきます。
松川哲也さん/ Wanderlust(ワンダーラスト)
(コワーキング:The DECK)
デザイナー・クリエイター・スペースマネージャーなどいくつもの顔をもつ松川さん。1つのことにとどまらず、色んな仕事を取組む「スラッシュワーカー」を名乗っています。主に音楽業界でアーティストの映像やグラフィックの制作にとり組んで来たキャリアを生かして、新しい領域へ展開を進めていく中で、コワーキングスペースの存在を知りました。
(右側が松川さん)
そんな松川さんが選んだのは、大阪・堺筋本町にある「The DECK」。ライブハウスにいるときと近い感覚でいられるため、とても気に入っているそうです。また、レーザーカッターなどのものづくりができる環境、多彩なイベント、会員同士の会話から得られる情報など、ここは松川さんにとって「自分の想像を上回る体験」ができる場だと言います。
(The DECKで行われたイベントの様子)
そんな体験から松川さんはもっとコワーキングについて知見を広げたいと、海外のコワーキングやカンファレンスを訪ね、スペースの在り方、コミュニティのつくり方を学びます。そして2019年10月には大阪・藤井寺市に自身が営むコワーキング「Nowhere Hajinosato」をオープンさせ、自身が思い描くコワーキングの在り方を表現し続けています。
Antoine Bourlonさん・中山 みなみさん/株式会社イルグルム
(コワーキング:GROVING BASE)
続いて登壇された Bourlon さん、中山さんには「会社員として、子育てワーカーとして、なぜコワーキングを働く場にえらんだのか」をお話いただきました。お二人が所属する「株式会社イルグルム」は、東京・大阪を拠点とし、WEBのツールを開発するなど企業のマーケティング活動を支援する事業をおこなっています。
(左側・Antoine Bourlonさん、右側・中山 みなみさん)
以前は、お二人ともに大阪オフィスへ勤務していましたが、中山さんの出産を機に京都支社を開設。京都・五条にある「GROVING BASE」にオフィスを構えます。子供が遊べるスペースや、家族で食事ができるランチスペースもあることから、この場所に決めたそうです。
ちょうど会社で「働き方改革」を行っていたこともあり、GROVING BASEを拠点とし、大阪へ週に一度出社、それ以外は京都で働くことができるようになりました。基本的な作業時間は9:00~18:00ですが、会社の制度により、17:00でいったん終了し、残りは夜に仕事を行うことなどフレキシブルな勤務も可能なのだそうです。
コワーキングを拠点としたことで、通勤時間を自由に使える、楽しいイベントに参加できるなど、生活するうえでも、大きなメリットが生まれていると言います。また、休日に子供を連れて行けることもうれしいところ。今後は仕事と育児が両立しているこの環境を、会社でも実現できるか実験的に行ってみたいと話してくれました。
宮内 めぐみさん/THE GUILD OBP・ことばとかめら編集部・屋号 そうそう!
(コワーキング:OBPアカデミア)
デザイナー、イラストレーター、ライターとして幅広く活躍されている宮内さん。会社員から独立してフリーランスとなり、会員である「OBPアカデミア」の仲間たちとギルドを組んで新しい働き方を実践していらっしゃいます。
もともとは地元・長野県でアパレル企業に勤めていましたが、クリエイターへの憧れから離職後にアルバイトをしながらデザインのスキルを取得。その後、大阪の教育関係の企業に、インハウスデザイナーとして就職しますが、もっとデザインの幅をひろげたいとフリーランスになりました。フリーランスとなってからは、「OBPアカデミア」「ONthe」を週3~4回利用しているそうです。
(OBPアカデミアの様子)
OBPアカデミアを利用する中で、いつも顔を合わせるメンバーとともに「THE GUILD OBP」を結成します。ギルドとはエンジニア、フォトグラファー、ライターなど「プロジェクトに対してそれぞれの持ち味を生かす」同業組合のこと。個人として請け負う仕事以外にも、「ギルド」として請ける仕事ができたおかげで、「クライアントに安心感を与えられる」、「自分の管轄外の仕事をチームで受けることができる」などの利点がたくさんあるそうです。
ギルドでは「挑戦」をテーマにしているそうで、個ではできないことをギルドで請け負い、「みんなで一緒に作り上げること」を喜びとしているそうです。会社でもない、個でもない働き方は、今後もどんどんと増えていきそうです。
人と人がつながりあえる場「コワーキングスペース」
続いて企業のコーワキング導入事例として「さくらインターネット」の奥畑 大介さんから「テレワーク導入ストーリー」をご紹介いただきました。
(どのようにテレワーク導入を実現したかについて話す奥畑さん)
最後のグループディスカッションでは、イベントのグラフィックレコーディングを担当いただいた奥野美里さんにより、参加者自身が登壇者からのインプットを受けて、コワーキンでの働き方や場の活用シーンを考える時間となりました。
(参加者の意見を聞きながら、ファシリテーションを行う奥野さん)
中には「色々な変態がいつも安心して集まる場所があればいいな」というユニークな意見も。コワーキングは、みんなの個性を存分に発揮できる、プライベートも仕事も充実させられる場所であってほしいという思いが込められているそうです。
(参加者は配られた付箋に自分の意見を書き込みました)
多くの人が足を運んでくれた「コワーキングフォーラム関西2020」。登壇者も参加者もみんな真剣で、熱く、その思いが伝わる時間でした。参加者の方の何人かに「今日のフォーラムはどうでしたか?」とお聞きしたところ、「最高でした」「関係者の熱が伝わってきた」「事例を元に運営するコワーキングを盛り上げていきたい」と笑顔で語ってくれました。
(チームになって意見をディスカッション)
このフォーラムに参加して、最も心に残ったのは「コワーキングは施設や設備が重要なのではない、そこにいる人が重要なんだ」ということ。コワーキングは「CO=共同で何かを生みだす場」。ただ場を共有するのではなく、互いの知識やスキルを知り、関係がつながる、つなげる人がいる。人を媒介にして、多くの情報が行き交い、新たな人と人のつながりが生まれる場所、それこそがコワーキングのある意味なんだと感じた時間でした。
コワーキングフォーラム関西2020の当日の様子をもっと知りたい方はこちら
https://www.facebook.com/KansaiBeyondTheCommunity/
関西のコワーキングをお得に周れる「コワーキングチケット」についてはこちら
https://www.facebook.com/events/522730881615954/
(文・三上由香利 編集・北川由依)