2022.06.8 THINK

【プロジェクト紹介】共働き・子育て世帯のライフスタイルを知り、亀岡市ならではのブランド戦略を考える

こんにちは。ツナグムの並河です。
ツナグムでは主に、京都府内各地への移住促進や地域の観光振興に関するプロジェクトに携わっています。

本日は、2022年1〜3月(R3年度)に実施させていただいた亀岡市の移住・定住施策に関するリサーチプロジェクトをご紹介したいと思います。

プロジェクトの概要
●事業名
亀岡市および近郊自治体の転出入者実態調査業務
●事業期間
2022年1〜3月
●担当者
並河
●クライアント
亀岡市SDGs創生課ならびに「かめおかブランド戦略プロジェクト」
●外部パートナー
一般社団法人公共とデザイン(リサーチの設計・分析サポート)
team.m(インタビュー・インタビューデータの書き起こし)

共働き・子育て世帯のライフスタイルを知り、当事者としての課題やニーズを理解する

今回、リサーチを伴走させていただいた亀岡市役所の「かめおかブランド戦略プロジェクト」によると、亀岡市の人口は2000年(94,555人)をピークに減少し、現在は87,604人(2021年10月)。人口減少の要因としては、自然減による影響があるものの、転出超過が大きく影響しており(2017年:△589人、2018年:△440人、2019年:△242人)、なかでも10代後半〜20代の転出が多い傾向にあります。

また、地域経済分析システム「RESAS」によると、亀岡市からの転出先は大阪や首都圏よりも京都市への転出数が多く見られる一方で、近年では京都市においても、20〜30代を中心に近隣自治体への転出が進んでいる現状があります。

就職や結婚、転職、子育て等などライフステージが変わってゆく当該世代にとって、子どもと一緒に住みたくなる・住みつづけたくなるまちとはどんなところなのか、日々の生活に求めているニーズを明らかにしていくために、「共働き世帯を中心とした子育てにまつわる悩み事」についてインタビューを交えたリサーチを実施することになりました。

目的1:移住促進のターゲットとなる属性のライフスタイルを知る
定量的に認識した京都府下の流れをもとに、移住における意思決定や子育てにおける課題など定性的な情報を集めることで、移住潜在層の意識やニーズを理解する。
目的2:ターゲットに向けた強みや今後提案できる施策を検討する
共働き世帯の子育て環境・生活についてヒアリングを行い、現在のライフスタイルにおける課題を伺いながら、どのような生活・まちが魅力に感じるのか、行政として今後提案できるサポート・事業機会を検討する。
目的3:亀岡市から転出した出身者の潜在意識を知る
転出のきっかけ・理由等を伺い、地元を離れて感じている亀岡市の課題・魅力を伺う。

すでに「かめおかブランド戦略プロジェクト」において、共働きの子育て世帯に焦点をあてながらSWOT分析や移住潜在層のペルソナを検討している段階だったので、ペルソナのライフスタイルを実際の生活シーンと照らし合わせていくところからご一緒させていただきました。

プロジェクトメンバーには子育て世代の方が多く参加していたことから、当事者としての悩みなどがシェアされていくなかで、日々の子育てにおいてどのような「時間」を短縮していきたいか、大切にしていきたい家族・わたしの「時間」にはどのようなものがあるかに焦点をあてていく方針となりました。

行政・民間・生活者それぞれの視点から、リサーチの力点をともに見つけていく

インタビューリサーチの実施に向けて、ソーシャルイノベーション・スタジオ「公共とデザイン」をパートナーとして迎え、本リサーチの力点を明確にするためのワークショップを開催しました。

冒頭に、アイスブレイクも兼ねて「かめおかブランド戦略プロジェクト」が考えたペルソナ夫婦の日常を演じるワークを行ったのですが、詳細にペルソナ像を設定していても、実際に演じるのはなかなか難しかったです。また、男性が妻役・女性が夫役を担当するなど、普段とは異なる立場を演じたことで、お互いの想像力を働かせることができました。

その後、共働き世帯が、子育てにおいて具体的にどのような「時間」を必要としているのかプロジェクトメンバーの実体験を交えながら仮説を立て、夫婦以外にどのような関係者が存在し、どのような課題・懸念を感じているのかブレインストーミングを行いました。

ワークショップを通して、リサーチの項目を以下の3点に絞り、公共とデザインさんにインタビューシート・ツールを作成いただきました。

1. 移住促進の魅力となる、親自身の理想とする時間とは?
子ども中心ではない、親個人にとっての理想の時間を探る。
2. 子育て・共同生活における、望ましい夫婦のあり方・現状の課題は?
育児を夫婦・家族で助け合えたり、生活をともに豊かに過ごすための理想の関係性を探る。
3. 家族をとりまく理想の助け合い関係とは?
どのような育児環境における助け合いの関係があると、移住定住の魅力となるかを探る。

インタビューは、主に働きながら育児をされている女性を対象に、①京都市内にお住まいの方(移住検討の方も含む)、②亀岡市に移住をしてきた方、③亀岡市を転出された方にご協力いただきました。

▲子育ての1日の流れの感情を曲線で記入するワーク
▲現状の子育てをとりまく関係者をマッピング

インタビューの一部と書き起こしについては、弊社小谷も参画をしている舞鶴市に拠点を構えるママ向けアウトソーシング「team.m」のみなさんにお世話になりました。子育て当事者のみなさんにインタビュアーを担当していただいたことで、さまざまな角度から働きながら子育てをされているみなさんの課題やニーズをお聞きすることができました。

明らかになったニーズと市の強みと掛け合わせながら、子育て世帯が働き・住みたくなるまちをつくる

分析パートも、引き続き公共とデザインさんにプロセスを設計いただき、インタビューでお話いただいた内容を一文ずつ付箋に起こし、プロジェクトチームとともに発言や感情の背景にある前提や懸念、因果関係などのインサイトを可視化していくワークショップを行いました。

▲発話データを単位化したもの(一部)

洗い出した子育て世帯の課題・ニーズに対して、「なぜ起きているのか」「どうしたら改善できそうか」という視点からアイデアを発想をしていくことで、SWOT分析による亀岡市の弱みをどのように改善していけるのか、あるいは、亀岡市の強みとかけ合わせて考えられる事業・ブランディングのポイントを考えました。

▲分析内容をを図解したもの

分析ワークショップをもとに出てきた問いや発想は、今後の議論やアイデアの発想に活用しやすいようにカードにしていただきました。行政職員のみなさんが誰でも活用できるカードになっていることで、各課において新しい企画や施策を考えるときに立ち返るポイントができ、今回のリサーチで明らかにしてきたことを実践の場に活かしていきやすいと思います。

▲問いのカード

おわりに

リサーチを進めるなかで、プロジェクトメンバーから「産休・育休を2回以上連続で取得すると職場復帰のハードルが高いよね」「そういえば、子育て世帯が利用している『かめまるランド』には母と子どもで来るケースが多い気がする」「一度妻に怒られてから、気がつけば妻が担当している家事・育児がある・・」「夫・父としての成功体験を積み上げる機会が少ないのでは?」といった問いがどんどん出てきました。

行政施策においては、どうしてもKPIとしてイベントへの参加人数が挙げられたり、移住者数の増加が求められてしまうのですが、“だれのための政策なのか?”を考えると、既存の政策における質を高めることや、当事者の声を拾いやすい状況にしておくことが必要だと感じます。また、生活者としてその地域で暮らしている職員さんが多い自治体においては、自分たちの日々の疑問や課題感を施策に吸い上げていくことも効果的だと感じました。

今回は、リサーチプロジェクトとして一旦完結をしましたが、事業を通して行政・民間・生活者の視点からともに考えたことを、今後の施策に活かしてもらえたら嬉しいです。

最後になりましたが、インタビューにご協力いただいたみなさん、パートナーとして参画していただいたみなさん、ありがとうございました。

●公共とデザイン
https://publicanddesign.studio/
本リサーチについての考察(note)
亀岡市との子育てリサーチプロジェクト: 依存しあえる子育て環境と、母からわたしを生きること。
https://note.com/publicanddesign/n/nc7623cca43bc?magazine_key=mbb6939a43c4d

●team.m
https://www.coworkation-village-maizuru.com/team-m

並河杏奈

並河 杏奈

京都府亀岡市出身。大学卒業後、地元の商店街活性化事業や、田舎暮らしに興味がある学生・若者向けのイベント企画、WEBメディアを中心に取材・執筆などを行う。2018年4月より京都府の移住促進事業に従事。2020年に一般社団法人Foginを立ち上げ、現在は亀岡市でコミュニティ・ツーリズム「Harvest Journey Kameoka」等において現地コーディネーターを務める。